音声こそ人の魅力を伝える最適ツール、熱狂が連鎖するコミュニティRadiotalkからプロのクリエイターを

通勤時間や家事、勉強の合間にTwitter、TikTok、Instagram、YouTubeといったプラットフォームを見ている人は多いだろう。会ったことはなくとも、そのプラットフォーム上で活躍する配信者やインフルエンサーの何かに惹かれてフォローし、彼らのコンテンツをチェックする。配信者たちは、ファンを獲得して知名度を上げていく。中には、元々他の職業に従事しながらも、配信だけで稼いでいけるレベルに到達した人たちもいる。配信者が職業として成立する時代になったのだ。

そんな中、YouTuberやTikTokerのように、ラジオからも「ラジオトーカー」として個人の配信者が生まれてほしいという思いで立ち上がったサービスがある。それがRadiotalkだ。人、テンション、話し方などから適切な番組オーナーを最適化してリコメンドしたり、音声を音声認識して字幕付きの動画として再生するなど、音の出せない環境にいても番組が楽しめるようになっている。芸能人が発信するプロコンテンツから、一般の個人が投稿するUGC(User Generated Contents/ユーザー生成コンテンツ)まで聴くことができ、尺も様々。配信コンテンツもバラエティに富み、ユーザーを飽きさせない。

Radiotalkの配信者は2022年2月には10万人を超え、配信者の中には1人で年間1,000万円以上の売上を達成するユーザーや、専業ラジオトーカーになるユーザーも登場している。ますます加熱するRadiotalkだが、元は社内起業制度からカーブアウトした会社であるという。

代表取締役である井上佳央里(いのうえ・かおり)氏は、なぜラジオに着目し、そこからプロのクリエイターを生み出したいと思ったのか。お話を伺った。

見た目や肩書きでなく「話」で勝負できる音声コンテンツに惹かれて

これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。

元々、掃除の時などにラジオを聞くのが好きだったんです。実家にコンポなどのラジオ機材があったわけではかったのですが、高校在学中に動画配信サイトが流行したことで、芸人さんがMCのラジオコンテンツを聴いたのが、ラジオに注目したきっかけでした。映像がなく、普段のおしゃべりと変わらない形式で、こんなに面白いコンテンツがあるんだということが衝撃的でした。

もっとラジオについて学びたいと考え、日本大学芸術学部放送学科に進学、ラジオ番組制作を行うことに。

実際に番組制作に携わることで、ラジオという産業にどんどん関心が高まっていきました。一方で、私が就職活動にあたった2010年前半において、ビジネス全体がこれからインターネットに傾倒していく状況なのは間違いありませんでした。そこで、インターネットでコンテンツ制作をしている企業へ就職しようと、2012年4月にエキサイトへ入社しました。Woman.excite、エキサイト翻訳、エキサイトブログ等のプロデュース、ディレクションを経て、2017年8月に社内ベンチャー制度でRadiotalk(β版)をリリースしました。

会社員を卒業しての起業ではなく、社内起業制度を利用されたのですね。

私自身は元々起業志向ではなかったこと、プライベートでもスタートアップの関係者が近くにいたわけではなかったことが大きいかもしれません。当時、背中を追っていたエキサイトの先輩が退職して起業したことで興味を持つことはありましたが、事業を起こす楽しさは社内起業でも生み出せますし、社内のほうが既に開発リソースが揃っている魅力もありました。

Radiotalkは最初は草ベンチャーのようなもので、芽が出るまでは業務外の時間につくっていました。自分が担当していたエキサイトブログのプロデューサーという仕事も面白く、やりがいを感じており、当時はエキサイトを退職する理由がありませんでした。

カーブアウトにあたってはどういう思考の変遷があったのでしょうか?

エキサイトをTOBで買収したXTechおよびXTech Ventures株式会社の代表である西條晋一(さいじょう・しんいち)氏とお話したのがきっかけでした。企業の中で新規事業を成長させる道と、社長として会社を大きくさせる道。この時、前者であれば一定の安定した環境が用意されていますが、資金や採用にキャップがなくIPOを目指せるカーブアウトのほうが、限界にとらわれずにスケールできるという視点を与えてもらったのです。Radiotalkにはこの時点で、既に協業先やメンバーの目処が立っていたこともあり、2019年3月にXTechの子会社としてRadiotalk株式会社を設立。代表取締役に就任しています。

当時、私は29歳でした。女性としては出産の適齢でもありますが、もともと妊娠も出産も難しい体質でした。本気で出産を目指すなら、いわゆる妊活の時間を確保しなくてはと考えると、起業という未経験のものに挑戦することに、以前は尻込みしてしまっていたのかもしれません。
ただ、そもそも私にとって出産への意欲は「国力を上げるために子どもを増やさなくては」という使命感から来ていたもので、必ずしも自分の子を産みたい思いはありませんでした。であれば、心を満たすエンタメを通して人々の生活を豊かにして、結果的に人口にも経済成長にも貢献する道もあるかもしれない。大前提、起業と家庭はトレードオフではなく両立できている事例が国内外問わずありますが、しばらくRadiotalkに専念する人生にしようと決意できた背景にはこの考え方があります。

私も、好きなことで稼ぐ、その活動の中で自分の大事な誰かに出会っていく、そんなライフとワークが行き来する、ハーモニーが生まれる社会になってほしいと思っています。実際に、Radiotalkのユーザーの方の中には、配信者に恋愛相談したことで結婚・出産に至ったリスナーもいれば、配信を通じて稼げるようになったことでそれまでの仕事による精神的な不調から解放されて、生き方が変わった配信者もいます。

私たちチームがやっていることは、事業成長だけでなく、時間や場所の制限を超えて、誰かの人生や働き方を変えることなのだと思えるのです。

独立されてからの資金調達はいかがでしょうか?

会社を設立して約2ヶ月後の2019年5月に毎日放送系MBSイノベーションドライブから約1億円の資金調達。翌年、2020年10月にSTRIVEをリード投資家としたVC各社からの資金調達を発表した他、累計約7億円の資金調達をしています。

資金調達に関しては、キャッシュバーンしそうな局面でハラハラしたりもするのですが、投資家回りをする時に憧れの人と会えるのが、個人的には楽しいです。例えば、以前から追っかけするほど尊敬する事業家の方が、Radiotalk立ち上げエピソードの取材記事をFacebookでシェアしてくれていて。それを見て、お話させていただけるかもしれないと思い連絡をしました。Radiotalkを褒めてもらったのが非常に嬉しくて、未だに励みになっています。

楽しいこともありますが、資金調達はスタートアップにとってとても責任や意味のあることだと思っています。調達をしたら、それは株主に期待をしてもらっていること。XTechの西條氏から「株主との信頼関係を第一にし、企業価値最大化に努めなければならない」と言われたことがあり、それが印象に残っています。スタートアップでは調達関連のリリースが飛び交い、つい競合他社と自社を比較して、焦って良いニュースを出さなくてはと思ってしまいがちですが、この言葉を胸に、誠実に経営をしていきたいといつも思っています。

Radiotalkの社員は平均29歳とのことですが、どのような社風なのでしょうか。

最初はリファラルで採用していたので、たまたま30歳前後がボリュームゾーンになってはいます。とはいえ、年齢などよりも音声コンテンツの可能性に理解があるかどうかということが前提で採用を進めています。

2018年に1人目のサーバーサイドエンジニアとして参画し、2021年からCTOとなった斉藤はエキサイト時代の同僚です。すごく近い距離で仕事をしていた訳ではないのですが、私が声を掛けようとした同じタイミングで彼自身もRadiotalkへの異動希望を出してくれていて、そのままジョインしてくれることになりました。斉藤自身も大学の時にラジオのパーソナリティをやりたいと考えていたから興味を持ったと聞いて、それならばきっと一緒にやれると思いました。私たちはストレングスファインダーの結果も考え方も全然異なるけれど、お互いの違いを理解してリスペクトし合えていて、ビジネスパートナーとしてはとても良い関係にあると感じています。エンジニア組織は彼にお任せしており、CTOとしてRadiotalkを力強く牽引してくれています。

ミッション・ビジョン・バリューは未制定ですが、「話すことを楽しくする」方向に向かっていて、メンバーが大切にしている姿勢は

  • 圧巻の成果を出す
  • 圧倒的ユーザーファースト
  • 理解とリスペクト
  • エンターテイナーの挑戦を続ける

の四つです。社内でも開発環境版のRadiotalkアプリを使って、雑談やLTを行うことがあります。外部への発信を推奨しているので、LTは社外にも公表していますし、その際のプレゼン資料をSpeakerdeckで公開する取り組みも行っています。また、エンジニアコミュニティや他社のイベントで登壇するメンバーが多い会社だとも思います。

スキル以外で、一緒に働きたくなる人についての条件は三つです。

  • 絶えない向上心
  • チャンスが巡りやすい動き方をする
  • 感動を忘れない

サービスを謙遜することなく自慢して、悪用ではなく感動を与えることに使う。社内でも感動に向かってポジティブに働いていく。そういったことができる方とご一緒したいと思っています。

Radiotalkの現在位置と、音声メディアの未来像

ラジオではどういったコンテンツが人気なのでしょうか?

私がRadiotalkを立ち上げた2017年時点でも、ラジオ局が提供するコンテンツどころか音声コンテンツ自体の種類が少ない状態でした。地上波ラジオのコンテンツの内容もボリュームゾーンである50代以上に偏りがちだと感じていたため、10代や20代といった若い世代を対象にしたものを作れないかなと思っていました。

また、実はラジオだからこう、テレビだからこう、とプラットフォームごとにコンテンツの傾向が固定されているわけではないんです。時代や人気が出るコンテンツ同士の棲み分けで流動的に変わってきます。例えば、最近では日常系と呼ばれるような日常を描いたアニメのヒット作の数は減ってきています。なぜかというと、日常を描いたコンテンツそのものが、Vtuberなどのライブ配信やSNSに移ってきているからではないかという仮説があります。日常系コンテンツとして見ていたものが配信で摂取できるので、アニメやドラマ、映画にはもっと非日常的なものを求めるようになるのですね。

音声コンテンツの変容には、コロナウイルスの影響もありました。これまで耳が空いていたのは主に通勤時間や寝る前の時間。通勤している間は電車で周囲に人がいて、会社や家では他の人がいるから、自分が受け身で聴いているだけで良い。すると、情報のインプットやリラックスに向いたコンテンツが人気になっていきます。一方、ステイホームが定着すると、仕事関係の人と直接接する機会が減り、寂しく感じてしまうことが増える。結果、誰かと一緒にいると感じられる、インタラクティブ性のあるコンテンツのほうが人気になっていく。そういった流れがありました。

Radiotalkでは、これまで音声コンテンツに触れてこなかった人にも使ってもらっているとのことですが、どのような工夫があったのでしょうか?

幅広い層の方でも簡単に配信ができるよう、1タップで誰でもすぐ始められるようなUI/UXを目指して設計をしています。また、Twitterが140字に制限を設けているように、Radiotalkでは12分という制限を設け、「配信の型」をつくり、初心者でも挑戦しやすいよう工夫をしました。

12分に辿り着くまでは仮説検証を重ねました。時間が無制限だったら一旦どれくらいで終了するのだろうと、いくつかペルソナをつくって検証してみたところ分かったのは、配信が終わらないということでした。実は配信者からすると続けることよりも終わらせることのほうが難しいことだったんです。結果何が起こるかというと、今度はリスナーの望む尺に合わないコンテンツが増えてきてしまう。昔から音声コンテンツを楽しんできたリスナーは長尺にも慣れていますが、Radiotalkではこれまで音声コンテンツに馴染みがなかった人にも使って欲しかった。そういったこともあり、配信時間に制限をつけることにしました。

そして、音声コンテンツに今まで馴染みが無かった人たちがどんな時にそれに触れようとするかというと、仕事中や勉強中にBGM代わりに流し続けるのではなく、メイクをしている時や歩いている時、料理をしている時といった、隙間に生まれる「ながら時間」がターゲットになると考えました。そしてこれを測ってみると、おおむね10分から15分。1日24時間もそうですが、2でも3でも割り切れる6の倍数である数字は使い勝手がよいと考えて12分としました。実際にこれでリリースしてみて、短すぎたり長かったりしたら変えようと思ってはいたのですが、想像以上にちょうどよかった印象です。配信者側も12分より短く配信を終えた人というのは実は少なくて、放っておくと長くなってしまう傾向がやはりあるなら、終わりをつくってあげたほうが良いなと改めて感じました。執筆経験のある人はわかると思いますが、原稿やエッセイを書いてください、という時に、それが1万字なのか、400字なのかで、何をどう話すか決めるのと同じです。初心者にとっては、ルールがある方が、コンテンツというのはつくりやすくなるのです。

音声配信プラットフォームは他にもいくつか登場していますが、どのあたりに競合優位性やオリジナリティがあるのでしょうか?

Voicy、Stand.fmの他、配信という意味だと17LIVEなども入ってくると思いますが、Radiotalkは「話す」に最も特化したプラットフォームにしていきたいと考えています。Voicyと明確に違うのは、既に活躍している人が音声コンテンツも手がけるのか、音声配信プラットフォームありきで配信者としてデビューするのかという点です。我々は後者として、無名の方をTalkの力で伸ばしていきたいと考えています。stand.fmは類似の事業ではあると思いますが、彼らは優しい世界を目指すというメッセージを見ることがあります。我々は、尖っていてもいいから熱狂をつくる場所でありたいと思っています。

また、思想だけでなく、実際にオリジナリティのある機能も進めています。2021年2月に出場した「ICCサミットFUKUOKA2021」スタートアップカタパルトでもプレゼンさせていただいたのですが、Amazon music,、Spotifyへの同時連携は国産の音声配信プラットフォームの中で唯一となっています。その結果露出が増え、俳優、タレント、文化人、一般層と認知の拡大とともにユーザーを獲得できています。

ライブ配信や投げ銭機能も、2020年の9月にリリースしました。配信者がマネタイズできるようになっており、実は私自身も一配信者として売上を立て開発資金に充てています。Instagramでは見た目の整った方やスタイルの良い方にフォローが集まり、TwitterやNewsPicksでは著名人にフォローが集まります。しかし、Radiotalkで人気の出る配信者 ラジオトーカーは元々は知名度があったわけではないですが配信を通して多くのファンを獲得した方々です。売上が集まれば、会いたかったゲストをお呼びすることもでき、コンテンツがさらに強化できる。このように5,000億円市場の個人ギフティング市場でラジオトーカーが育つ仕組みをつくり、最終的には個人によるイベント開催、グッズ販売、メディアミックスといったマルチチャンネル へ発展させたいと考えています。

実際に画面を拝見しましたが、ギフティング(スタンプ)による場の盛り上がり方がすごいですね。

はい、ギフティングにおいては「わかりみ」「推せる」「草」「なんでやねん」といった気持ちを表現できるスタンプを用意しています。スタンプでリスナーが配信を盛り上げ、同時に配信者への送金もできるような仕組みです。金額よりも盛り上がりを重視し、その場独特のテンションを醸成できるのが特徴になっています。また、並行して配信者とリスナーの熱量を可視化できるスコアという概念をつくっています。「今日で何万スコアを達成したらグッズをつくって還元します!」といった企画をされている配信者もいらっしゃいます。その分、他のプラットフォームと比較して、配信者とリスナーの距離が近く、熱量の高いコミュニティを生成できていると思います。

ICCのお話が出ましたが、2021年6月に「IVS LAUNCHPAD Entertainment」にも出場され、決勝まで進まれていますね。

2021年は、ICCとIVSの両方に出させていただきました。それをきっかけに、いわゆるスタートアップ村以外にもRadiotalkが認知されたと感じています。あらゆる領域におけるクリエイティブを対象としたアワードである、「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の2021年ラジオ&オーディオ広告部門の審査員にも加えていただくことができました。

我々は経済的成長を追い求めるスタートアップでもありますが、文化的な評価をいただく機会も増えてきました。「話す」という、人間の極めて基礎的な機能を拡張や成長させていくという観点が、経済成長とも密接に絡み合って相乗効果をもたらせると考えています。私個人、そして会社自体が、コミュニケーションの歴史を理解した上でそれをさらに発展させる活動を続けていきたい。そして、この理念を広めるべく世界にも出ていきたいですね。

世界というワードが出ましたが、海外では音声コンテンツはどのような状況なのでしょうか?

音声領域に関しては、中国やアメリカが先行しています。アメリカでは、YouTuberの音声版と言える「ポッドキャスター」と呼ばれるPodcastの有名人がいたり、彼らをプロデュースする事業が生まれています。先にPodcastで音声コンテンツを制作し、ヒットしたらNetflixで動画化するという事例もあるんです。また、中国最大の音声プラットフォームアプリの一つであるLizhiは、今年アメリカで「LIZI」としてナスダックに上場するほど認知が広がっています。

私たちが狙っているのは、まずは日本市場。国内市場においても、AmazonやSpotifyといった外資系大手テクノロジー企業が台頭していますが、彼らと戦わない勝ち方があると思っています。なぜかというと、話すということは言語そのものであり、言語の裏側にはカルチャーが存在するからです。例えばブログサービスにおいては、欧米だとTumblrやMedium、日本だとはてなが人気になりました。機能は類似でも、浸透するのは独自のプラットフォームなんです。日本人ならば、日本ならではの行間を読み解く設計が求められる。だからClubhouseは日本に定着しなかったと考えています。Radiotalkのスタンプなどは、そういった行間や感情を埋めたいという欲求に合致しているので、配信者との一体感というハイコンテキストなコミュニケーションに価値を感じる文化圏でうまく使ってもらえるだろうと思っています。配信者を模したギフトや効果音も作れるようになっていて、加速度的に熱狂が生まれるつくりになっているので、一度受け入れられたらヘビーユーザーが獲得できると思っています。

最近ではWeb3が人気ですね。音声コンテンツを含むオンラインカルチャーは、これからどうなっていくと思われますか?

Web3は、エコノミー、テック、カルチャーに分かれていて、それぞれ住んでいる人が違うという印象です。Radiotalkは、社員の半分がエンジニアということもあり、テックとコンテンツを介したカルチャーに寄っているかもしれません。Web3の盛り上がりの前にもオンライン文化は脈々とした歴史を築いてきています。インターネットの普及の中で、アバター文化が出来て匿名のユーザー同士がオンラインで会話し、そのコミュニケーションがテキストや画像になったり、音声や動画になったり、はたまたゲームになったりして、コンテンツの形は広がりました。Radiotalkもその延長線上にいると思っています。Web3というのは、それをどのタイミングで切り取るかということではないかと。我々は、現実から見えている半歩先を実現することに主眼を置いているので、10年先に流行ることを想定した事業を今やろうということはしていません。一方、Radiotalkがつくる少し先の未来の後にも、いろんなカルチャーがまた育っていくのでしょう。ハードウェアもそうで、音声コンテンツを聞くのは、スマートスピーカーやハンズフリーイヤフォンが現在は主流ですが、今後はもっと自然に聞きやすいデバイスが出てくるのではとも思っています。

どの層にどう響くかも、年齢というよりはユーザのニーズやライフスタイルによるところが大きいと感じています。例えば、音声コンテンツユーザーのボリュームゾーンは20-30代ではありますが、年齢による分布というよりも子育て中や一人暮らし中といった、耳の可処分時間があるライフスタイルかどうかの影響の方が大きい。内容も、友達との交流をしたいのか、面白いコンテンツを受動的に楽しみたいのか、グラデーションが存在します。それによって聞こうとするものは変わってきます。Radiotalkの場合は、一方的な講義でもただのダベりでもなく、リスナーと一緒にコンテンツをつくっていくところが特徴です。配信者側の立場に立ってみると、リスナーの反応がない一方的な配信の方が少しハードルが高かったりする。コンテンツを手探り、且つ自分で決めないといけないからです。特に、友達となんでも共有して楽しむことになれているZ世代には、一人でのコンテンツ制作と配信はハードルが高く感じることでしょう。Radiotalkは、ラジオは知らないしPodcastはハードル高い、でも友達とのお喋りだけじゃない番組をつくってみたいという層に絶妙にハマっているのだと思います。

投稿を通して、まだ見ぬ誰かと繋がる感覚に救われて

学生時代はどのように過ごされましたか?

通っていた小学校はとても荒れていて学級崩壊している状態でした。加えて、当時は私自身、人と話せないくらい内気で。吃音とまではいかないのですが、気持ちの揺れがどもりに現れることがあります。よりよい環境を目指して中学受験をするために塾に通っていましたが、塾は塾でいじめがあり落ち着かない。学校にいても遊び相手もいないし、教室で本を読むことも許されない雰囲気で、教壇の下で体育座りをして過ごしたりしていました。

元々内気ではあったのですが、これを変えてくれたのが朝日小学生新聞でした。投書欄があるのですが、ある日私の投書が掲載されたんです。私の書いた投書を読んでいる、顔も知らない、遠いところにいるかもしれない誰かと繋がる感覚ができた。これをきっかけに、直接会話するわけではなくとも、媒体やインターネットを通じて発信するということを始めました。リスクを考えずに、2ちゃんねるに投稿したりして(笑)。私にとってラジオも実はその延長線上にあって、爆笑問題カーボーイで投稿を読んでもらったことがあります。音声メディアの形はいくつもあるのに、Radiotalkをユーザー投稿型コンテンツにし続けたいと強く思い続けるのは、私のこの原体験による影響は大きそうです。私自身が投稿型メディアに救われたから、同じように孤独を感じる誰かを救うものを世界に届けたいのかもしれませんね。

中学では受験に合格して女子校に入学、徐々に人と話すことが楽しいことだと思えるようになりました。部活は卓球部でした。なぜ卓球部を選んだかというと、ハンデを勝機に変えたい思いがあって。私は今も小柄な方ですが、中学1年生の時の身長は132cm。運動部に入って活躍したいという気持ちはずっとあったのですが、中高一貫校で高校生も混ざって部活をする中で、身長がものをいうバスケットボールやバレーボールで活躍することはまず難しかった。しかし、実は卓球は背が低いことに利点がある種目。自分がハンデを負っている状況でもいかにして勝ち筋を見出すかということを当時からやっていて、今振り返ると象徴的な話かなと思います。卓球は6年間続けました。日本の女子卓球選手である石川佳純さんが好きで、オフィスにも石川佳純カレーを常備しています。

仕事以外には何をして過ごされていますか?

趣味というほど頻繁ではないのですが、1年に1回くらい卓球をすることがあります。エキサイトオフィスに卓球台があって、Radiotalkのユーザーとの交流会でも卓球をすることもありますね。

また、ラジオ番組を批評するNPO法人のメンバーに入れさせていただいているのも、仕事でもあるのですが私にとっては息抜きの時間だと感じています。この活動では、賞の選定のために様々なラジオコンテンツを80時間分聴いたりします。もちろん、聴きながらビジネスのことを考えてしまって投げ銭ポイントはここだよねといった目線もあるのですが、良いコンテンツであるかを吟味することに没頭できる時間を作らせてもらっているなと。

私はそもそも、活動を続けるべきクリエイターは経済的に報われるべきだし、ファンとしては次の作品をみるために何らかの形でお金を出したほうが良いと思っていて。だから好きなVTuberの動画は広告収益を発生させるためにも見ますし、好きな卓球選手の石川佳純さんが出しているカレーも買います(笑)。VTuberで最近の推しは「ピーナッツくん」。VTuberであり、ラッパーであり、ショートアニメ制作者でもあり、セルフプロデュース力が強くてグッズの売り上げもすごいんです。このピーナッツくんへの情熱は私がエンターテイメントの仕事をしているからなのか、個人的なファン心理なのかはよくわかりませんが、ピーナッツくんに限らずどういうインフルエンサーが、どういう畑でどう輝いているのかということはすぐ分析してしまいます。他のインフルエンサーの活躍を見て、RadiotalkのTalkerたちももっと売れるのではと、どんどん考えてしまって。もはや親心みたいなものかもしれませんね。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか?

私はまだ成功していないと思っていて。成功していないときは苦しくてつらいです。それを楽しむ人もいるだろうけれど、走っている間というのはゼイゼイと息を切らしているもので、ゴールして初めて「やった!」と喜べる。スタートアップの経営をしていると「今、幸せですか?」と聞かれることもありますが、別に今が幸せである必要はないかなと思うようになりました。成し遂げたいことがあってゴールがあるんだったら走り続ければいい。走っている間がつらいのは当たり前で、だからつらくてもそれを変えなければならないと思う必要はないなと。

私にとっての成功とは「社会を変える手応え」です。Radiotalkでいえば、話すことを仕事にする人がたくさん生まれること。Talkerを専業にできるほど稼げている人はまだ数える程度ではありますが、これが当たり前になって、彼らの生活を支えていけるようになれば、パラダイムシフトできたと思えるのではないかなと。

最後に、読者へ一言お願いいたします。

音声メディアというのは写真やショート動画、短いテキストとは違い、一瞬で配信者のことを理解したり共感することは難しいもの。だからこそ、発信しているコンテンツや配信者そのものに深く共感した人が集まり、リスナーとして定着していき、濃いコミュニティが生まれていきます。逆にパッと見の情報で分かる範囲が限られているためアンチがつきにくい性質もあります。それによって配信者は安心して熱量の高いリスナーに向けた活動に専念でき、良いクリエイティブサイクルが生まれると考えています。

音声配信は生まれたての市場。5年後には、話すことで稼げる人が大量に生まれている世界を目指しています。同じ価値観を持つ人はぜひRadiotalkにジョインしてみてください。まずは私のRadiotalk配信にコメントからでも(笑)。

Radiotalk株式会社
住所
東京都港区南麻布3-20-1 Daiwa麻布テラス5階
代表者名
井上 佳央里
会社URL
https://radiotalk.jp/
採用関連
https://www.wantedly.com/companies/Radiotalk
Eriko Nonaka
JP Startups副編集長/N.FIELD代表 三菱UFJ銀行、SoftBankを経て2019年より一般社団法人Fintech協会事務局長。2020年より合同会社N.FIELD代表。TechCrunchJapanライターを経て2022年よりJPStartups副編集長。 多方面の事業に明るく、イベント登壇・執筆、スタートアップ支援、業界団体運営を通したパブリック・アフェアーズなどにより、自律分散型社会の設計を目指す。