あなたは、最初に触れたおもちゃを覚えているか 幼少期から多様な選択肢を示し、豊かな人格形成を目指すおもちゃサブスク「トイサブ!」の挑戦

あなたは、生まれて最初に目にし、触ったおもちゃを覚えているだろうか。それは家族が好きだったものかもしれないし、その時の流行のものかもしれないし、あなた自身が選んだものだったのかもしれない。

今はそれを覚えていなくとも、そのおもちゃをきっかけに、次はこんなものが欲しいと考えるようになっただろう。ガールズトイ、ボーイズトイなど、それ「らしい」という概念もそこから学んでいく。大人になるまでにできあがった今の人格も、そうやって形成されていった。では、今度は自分が親になったとき、我が子にはどんなおもちゃを与えたらいいのだろう?どうせすぐに飽きてしまうだろうし値段で選ぼうか。それとも友人や家族の勧めるものが良いか。

人格形成の基礎となる幼少期。おもちゃを通して、いろいろな色んな選択肢に触れて、いろいろな価値観を持って欲しい。そんな思いから立ち上がった、0歳3ヶ月から満6歳向け知育玩具のサブスクリプションサービスがある。株式会社トラーナの運営する「トイサブ!」だ。同社は、2022年6月末段階、13,500名を超えるユーザー、35万件を超えるおもちゃの評価データを保有するという。

成長スピードの早い乳幼児に対し、買っては捨てるというサイクルではなく、良いものは交換し受け継いでいくという、今時らしいサステナブルな概念も大事にする。代表取締役、志田 典道 (しだ・のりみつ)氏の、おもちゃのサブスクだけに留まらない想いを伺った。

キャリアを見直す時期に出会った「サブスクモデル」と「おもちゃ売り場」

これまでのキャリアと、起業のきっかけを伺えますか。

元々、大学2年生の終わりごろから、友達と3人で起業をしていたんです。事業をすること自体が面白いという動機もありましたが、そもそも私は家庭の事情でお金がなく、アルバイト以外にもお金を稼ぐ力をつけていく必要があって事業をしていました。ただ、一緒にやっていた内の1人が事業を辞めて就職するというので、であれば一旦その事業を解散しようということとなり、私も就活を始めました。

最初の就職先は、セキュリティソフトウェア開発会社のトレンドマイクロ。小学生のころからパソコンを触っていたこと、時期的にP2P通信のWinnyが話題になっていたこともあって、通信における防衛とはどういうことなのだろうという好奇心もあり、学生時代に時給が良いアルバイトを探す中でセキュリティサポートのアルバイトにたどり着いて。その時の知見があったため、セキュリティ領域で就活をしてみたのですが、当時はセキュリティエンジニアはほとんどが中途採用で。新卒のようなジュニア枠でも採用してくれていたのはトレンドマイクロ1社で、自動的に同社への入社を決めました。

その後はセキュリティエンジニアのキャリアを極めに行ったというよりは、外資系マネジメントのキャリアに進まれておりますね。

はい、外資系企業の中でも日本進出をするタイミングの会社を転々とし、日本法人立ち上げのポジションを複数経験しました。比較的給料も良く、側から見れば順調なキャリアではあったのでしょうが、このままでいいのかと、もやもやを抱え始めました。そんなころ、学生時代のノートをたまたま開く機会があって。時間があり余っていたあのころ、生きている間にやりたいことを書き出していたのですが、そこに「起業」という言葉があったんですね。ああ、自分は起業をしてみたいと思っていたのだったっけと、無意識下ではありつつ、起業がその後のキャリアの選択肢に入っていきました。

なるほど。構想として、おもちゃのサブスクリプション事業に至ったのはどういう経緯だったのでしょうか。

起業する直前の2014年ごろは、アメリカではちょうどサブスクリプションモデルが普及し始めたころでした。何の事業で起業するかはまだ明確に考えてはいませんでしたが、日本でサブスクリプションモデルを展開できないかとぼんやり考えていました。

そんなころ、第二子が誕生。おもちゃを買おうとヨドバシカメラに行ったところ、並んでいるのはアンパンマンにしまじろうと見慣れたキャラクターがほとんど。さらに、ガールズトイはピンクベースで、レースやフリルや魔法少女。ボーイズトイはブルーベースで車や変形ロボットと、明確に種別が分かれていた。

それを選択するのが本人の意向であれば構わない。けれど、幼少期から無意識の偏見を刷り込みかねない世界観に、違和感を感じたんです。この世界観でおもちゃを選ぶことになるなら、本人が本当に気になるものは別にあったとしても、親が勧めたり、友達が自慢していたりするものを手にとってしまうということは起こりうるでしょう。売れ筋商品を並べるのは営利事業として当然の戦略であることはもちろん理解はしているのですが、玩具は発達や教育に密接につながっているもの。おもちゃ売り場の担当者には、グラデーションのある、ニュートラルな価値観を持っていて欲しいなと思いました。

その時は、おもちゃを試せないといった理由から購入には至らなかったのですが、この時抱いた課題感を友人たちと共有しながら会話をし続けたところ、おもちゃをサブスクリプションで展開すればいいのではないかという、現在のトイサブ!の着想に至りました。最初は副業で事業構想をしていましたが、スケールに伴い2015年3月に法人化してトラーナを設立しました。

おもちゃ売り場で抱いた違和感がきっかけだったのですね。起業された2015年当時から2022年の今まで、おもちゃ売り場自体に変化はあったのでしょうか。

いまだに昭和から人気の根強いキャラクターの商品を置いていることが多いですね。世界トップのマテル社がリードし、バンダイナムコが追随。意外かもしれませんが、おもちゃの売上高は前年対比2〜5%増加傾向となっていて、出生率が低下してきていることを考えると1人あたりに与えられるおもちゃの予算は増えているということになります。そうすると、与えるおもちゃの質や量は変わってきているはず。最近はダイバーシティやサステナブルについて取り上げられる機会も随分増えましたし、親世代の関心も変わってきていそうですよね。

アンパンマン(やなせたかしブランド)やしまじろう(ベネッセブランド)はすごいんです。姓名判断などで一度ベネッセのサービスを利用すると、そのときの顧客情報を元に営業を続け、出生後に「こどもちゃれんじ」の講読を勧めるメールやフライヤーを送る。講読を始めると、付録でしまじろうのパペットがついてくるんですけれども、パペットって子どもからすると、自分より小さくて可愛いお友達で、一番よくお話する相手にもなりうる。家族とは話してくれなくても、人形には子どもが心を開いてくれるという話をよく聞きますが、そうやって子どもの心を掴んでいき、欲しいおもちゃを問うと「しまじろう」と答えるようになる。多くの人にとって、生まれて初めて認識するIPコンテンツになりますね(笑)。

確かに、パペットには心を開いていた記憶があります(笑)。おもちゃの選び方は月齢、年齢によってどのように変わるのでしょうか。また、トイサブ!を使う子どもたちはどのあたりの年齢の子が多いですか。

トイサブ!では0歳3ヶ月から満6歳を対象としていますが、おもちゃに求める役割は、エンターテイメントからエデュケーションへグラデーションしながら変化していく印象があります。何をしても笑って泣く0歳。玩具に対する関心を示し始めるのが1歳。その後、丸・三角・四角を認識する、押したり振ったりすると音が鳴る、といった、形や色のルールや、物理的理解をするためのおもちゃの利用が増えていきます。3〜4歳になると、メロディを奏でることができたり、お絵描きをすることができるなど、応用性があるかという視点に変わっていきます。

トイサブ!におけるユーザーは、概ね0〜1歳がボリュームゾーンとなっており、全体の7〜8割を占めます。その背景としては、市場需要を反映しているというよりは、トイサブ!のユーザーが特に増え始めたのが2020年ごろであること、事業を開始したころからのユーザーのお子さんが成長してきていることがあると考えています。トイサブ!開始の適正年齢については、当然0歳から使い始めてもらった方がLTVが長くなるので我々のビジネス上は良いという視点はありつつ、私個人としての思想上も、早くからトイサブ!に触れて、無意識下の思い込みが形成される前に柔軟な思考を手に入れる機会を得て欲しいなと。私自身、幼少期から大変な状況にはありましたが、自分がもらった以上のものをこれからの子どもたちに与えられたらと思っています。

実際の申し込みを担う親世代は、どういった顧客層になっているのでしょうか。

一番ユーザーが多いのは、居住エリアで見ると、東京都内は上から、世田谷区、港区、品川区、杉並区、江東区となっています。比較的世帯所得が高く、情報感度も高い層に刺さっていると見ています。また、都心は家が狭くなりがちなので、庭や自然の中で広く遊ばせてあげることが難しい分、おもちゃにかける予算が多いのではないかと。

広告戦略にあたり、ユーザーに「よく見るメディアは何か」というアンケートを取ったのですが、幼児向けテレビ番組が多かったです。一方、内訳には変化が見られ、Eテレの「いないいないばあっ!」は引き続き上位にいるものの、アンパンマンなど個別IPアニメーションの視聴率は減少傾向にあります。最近では、テレビでなく、タブレットでYouTubeやNetflixなどのネットオリジナルのコンテンツを視聴させる家庭も増えてきていますし、子どもも親も視聴メディアが分散してきているのだと考えています。店舗連携戦略も行っていて、乳幼児向け小売大手だと、アカチャンホンポ、西松屋、ベビーザらス・トイザらスがありますが、現在はアカチャンホンポと提携して、おもちゃを実際に試せるイベントの開催などを行っています。

おもちゃだけでなく、子どもの選択肢全てを示唆するBabyTechへ

起業後、事業構想のピボットはあったのでしょうか。

仕組み自体は当初からほぼ変わっておらず、システムやオペレーション、取り扱いおもちゃ数の改善などのバージョンアップを続けてきている状態ですね。

おもちゃは自社の各拠点で梱包、発送しているとのことですが、新型コロナウイルスの影響で社員の出勤が難しくなると、オペレーションは大変だったのではないでしょうか。

はい、保育園の休園が本格化し始め、自宅待機を余儀なくされるスタッフが出てくることで、商品の発送を担うフルフィルメントチームの対応が追いつかなくなるという事態が発生しました。感染拡大となる2021年は、ちょうどシステムを入れ替えようと準備をしていたころでしたし、ビニール手袋やマスクを着用してのフルフィルメントオペレーションの整備、発送遅延に伴うユーザーへの返金対応など、やることも多くてとにかく大変でしたね。緊急事態宣言が明けてから復旧しましたが、改めて組織を考え直すきっかけになりました。

今は千葉と東京にセンターを構築したことで、結果的に緊急事態に対応できる体制になっています。実は保育園の休園というのは地域によってタイムラグがありまして。東京が休園になっているときは千葉がまだ運営していて、千葉が休園になるころは東京が復旧しているという状況になるので、どちらかが止まっても配送を遅らせずに済みます。

ステイホームが増えて、親が子どもと向き合う時間は増えました。子どもも家で過ごす時間が増えるため、自然とおもちゃに対する期待は高まってきています。新型コロナウイルスの影響で発送遅延が発生したころ、ユーザーの方々からいろんな意見をいただきました。厳しいご意見ももちろんありましたが、それは結局、おもちゃに対しての大きな期待の現れです。自分たちがやっていることは、ただのおもちゃの発送ではなく子どもの時間の過ごし方など、教育の根幹に関わることなのだと気持ちを新たにしました。

競合企業が増加してきているかと思いますが、独自性をどのあたりに置いていきたいとお考えでしょうか。

個人的には、子どもによる選択機会が増えることは望ましいので、競合の企業やサービスが増えること自体は好ましく思っています。私たちがやっているおもちゃのサブスクというのは、「選ぶ⇒買う⇒楽しむ⇒飽きる⇒捨てる」から、「届く⇒楽しむ⇒評価する⇒交換する」へのシフトというのが根幹的な理念です。競合他社は増えてきているものの、実はこれを主力事業にしている企業は他に1社程度。また弊社はこれまで、ユーザーに深く向き合い、サプライヤーとの信頼関係を結び、システムやオペレーションのノウハウや顧客データを地道に溜めてきました。ここまでの積み重ねのある企業は実はそうないので、参入障壁は低いのですが、拡大障壁は高いと思っています。

一方、マニュアル化できるオペレーションでないと拡大は難しいので、すでにスケールした海外企業が日本進出し、多額の資金を投下する広告戦略を始めた場合は弊社の売上にも影響があるのかもしれないとは思っています。最近だと、2015年にアメリカで創業したLoveveryが成長してきており、日本進出も狙っているようですね。とはいえ、日本のユーザーについて一番深く知っているのは自分たちであるという自負もありますし、外資は利益重視での参入がほとんどですから、向いている方向が違うのではとも思っています。

事業の強化にあたっては資金調達が重要になってきますが、これまでの調達状況についてお伺いできますか。

2019年12月にサムライインキュベート、KVP、コロプラネクストから1億円を調達。その1年後にはサムライインキュベート(2回目)とANOBAKA(元KVP、2回目)から追加で1億円。2022年4月にはサムライインキュベート(3回目)、AGキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタル、住友商事、創発の莟ファンド、他適格機関投資家を引受先とした総額3.7億円と、順調に調達を進めております。オペレーション最適化や、顧客管理・配送管理を内製化するシステム投資を続け、さらなる事業拡大を目指しています。

特にサムライインキュベートさんには、シード期から直近のラウンドまで出資いただいており、長い付き合いですね。同社は元々コンシューマ向けサービスに関心があり、エアクローゼットやヤマップなどにも投資をしていますが、我々にも期待いただいているように感じています。コロプラネクストからの出資は、ゲーム等エンターテイメントコンテンツとのシナジーベースでのものかと聞かれることもありますが、純投資です。ご担当である​​淵江 大道(ふちえ・だいどう)氏の初めての案件になります。スケールを期待して選んでいただけるのは嬉しいものですね。

教育に関心が強い読者の中には、入社を希望する人もいるのではと思いますが、組織風土や採用について伺えますか。

ミッションは「おもちゃと親子をむすぶ」、ビジョンは「幸せな親子時間を増やそうぜ」です。グローバルNo.1玩具サービス事業者を目指しています。バリューは「Owe It All To You(あなたのおかげ)」、「Grasp This Bar(この指とまれ)」、「Pioneer’s mindset(開拓者精神)」の三つを掲げています。

現在、拠点は、千葉、野方、高円寺にあり、リモート参画のメンバーもいます。エンジニアチームは助け合いと称賛、オペレーションチームは数字達成に対する実直さや行動力と、重要視しているものが若干分かれてはいますが、全体的に助け合いの文化です。社内コミュニケーションにはSlackを、勤怠管理にはジョブカンを使っているのですが、Slackでジョブカンタッチ(終業申請)していただくときに、私はいつも「ハッピージョブカンタッチしてる?」と聞くようにしています(笑)。オペレーションチームはパートタイムの方が多いのですが、チームリーダーのフラットな人格が良いのか、温かく丁寧にフォローアップしてくれて、こんなに自分個人を見てくれる会社は珍しい、という感想をよくいただきます。

一緒に働きたいのは、やはり「幸せな親子時間を増やそうぜ」というビジョンに共感いただける方。私は面接するとき、スキルについては聞かず、キャリアの行き先に何があり、なぜトラーナなのか、入社後にどんなことを実現できていると良いかをよく問うからか、アピールしたい部分を聞いてもらえない珍しい面接だったと言われることがあります。でも、経歴やスキルは履歴書に書いてあるので見たらわかるじゃないですか。それよりも、自分のことについて内省した結果、自分がどんな思いでここにいて、何をしたいと思っているか、それを聞きたいですね。

今後の展開についてはどうお考えでしょうか。

基礎玩具及び乳幼児通信教育市場の国内TAM(Total Addressable Market/実現可能な最大市場規模)は2,000億円規模といわれています。保育・児童教育については、どの国でも厚生労働省にあたる機関や各自治体から、ある程度の指針が出されています。何をやっていくかの方向性やロードマップはその指針によって引かれていて、それを考慮した上で事業計画を書くことになります。一方、事業者側からも意見を具申していけるといいなとは思います。

自社の方向性としては、成長可能性のスーパーアプリを目指すのがいいだろうとは思っています。これからの時代、共働き夫婦が増えていくでしょうけれども、多忙ながらも子どもに何か投資をしたい、けれど何がいいのかリサーチする時間がない、そんな人たちを助けるサービスになっていきたい。私たちの事業の本質は、玩具のサブスクではなくて、子どもの成長や発達を助ける選択肢を見つけるサービスだと思っています。

プラットフォーム事業者の場合、それまでの購買データを元にプライベートブランドの開発を戦略として採ることが多いですが、オリジナルのおもちゃ開発を行う予定はあるのでしょうか。

はい、プライベートブランドは既に提供を開始しています。特に初期開発のコストが低い木材製のおもちゃの開発を進めています。日本では木材供給企業の多さに対し、その加工商品の主力となる家具の受注が減少してきているので、売れる木材加工製品の企画が求められており、協力してくれる木材加工業者も多い。木材製のおもちゃであれば、金型や基板設計も不要です。プラスチック製だと金型づくりだけで500万円から1,000万円、パーツが多ければより膨大な金額の初期費用がかかりますので、相当な数売れる見込みがないと手を出せません。

アメリカでも、親世代がファストフードやエナジードリンクばかりで育ってきている反動か、子どもに与える食事やおもちゃは、オーガニックがトレンド。木製のおもちゃは、サステナブルや環境配慮、オーガニックなどの観点から、海外市場受けも悪くないと思います。

なるほど。木製の車やロボットのおもちゃ、などでしょうか?

私が特につくりたいと思っているのは、実はドールハウス、なんです。シルバニアファミリーのような。ドールハウスって、小さな「世界」ですよね。どういう設計にして、どんな家具を置き、どんな人が住んで、どんな生活を送るか。シミュレーションをするのに最適なんです。リアル・マインクラフトのようなものですね。

おもちゃ以外にキャラクター戦略なども考えられていたりするのでしょうか。

はい、いつか、しまじろうやアンパンマンを超えるキャラクターを作ってみたいとも思っています。特に乳幼児向けのキャラクターや製品は、かなり多様化が進み新規参入のチャンスも増えています。日本でも大ブームになったベイビーシャークやベビーバスもYouTube発で流行った新しいIPです。親世代の情報収集の方法が変わったこともありますが、情報過多のこの時代、見慣れたコンテンツに飽きて、消費者が多様なコンテンツを求める気持ちは高まってきているのでしょう。それは我々にとってチャンスでもありますから、これからの世代に受け入れられるようなものを創作していけると良いなと思います。

実は、東京おもちゃショーのような、おもちゃの展示会も様相が変わってきているのですよ。そもそも企画担当者が、これまでは50〜60代が多かったのに、30〜40代に世代交代されてきている。担当者や、顧客となる親の価値観が変わり、おもちゃショーのあり方も変わることで業界全体が前向きなやる気に満ちています。直近開催された東京おもちゃショーでも、新型コロナウイルスの流行以前よりむしろ展示会が活気づいていて、復活の狼煙が上がったなと感じました。

厳しかった自身の幼少期、次世代の子どもたちには選択肢を与えたい

学生時代はどのように過ごされましたか。

幼少期から10代までは貧しい生活で、中学への通学も途中から難しくなり、児童養護施設へ入所しています。施設は15歳になると卒業しないといけない決まりで、その後の選択肢は、キリスト教か仏教のいずれかの施設を選んで行くか、保護者が現れて引き取られるかの二択でした。私は奇跡的に実の父親が見つかりまして、彼と暮らす形で卒業が決まったのですが、施設の子どもたちとは勉強を教えながら家族のように暮らしていたこともあり、ずっと一緒にいてくれると思っていたのにと言われてしまったことが心に残っています。だからこそ、どんな境遇に生まれ育っても、幸せに生きてほしいという気持ちがあるのかもしれませんね。

アルバイトで学費を稼ぎながら高校へ通いました。家族のふれあいを感じる機会が多くはありませんでしたから、家族とは何かを、友達の話を聞いて学び、親子にもいろいろな関係があることを知りました。起業や社長になるということは考える余裕ももちろんなくて。子どものころの夢は「樹木医」でした。何かを守り育てるということ自体に関心が強かったのかもしれませんね。

大学は明治大学の法学部法律学科に進学。学内の明大マートというコンビニエンスストアでアルバイトをしていました。大学2年生のときに、「学生のためのビジネスプランコンテストKING2005」というイベントに参加しました。7泊8日の合宿だったのですが、その時初めてビジネスという単語に触れました。最終日には社会人向けにプレゼン。そのときのテーマが「マクドナルドの新規事業を考える」というもので、私は「マクドナルドの店舗スペースを保育事業に組み替えられるよう改装し、保育事業に新規参入する」というアイデアで発表しました。当時は、保育で起業したいと思っていたというよりは、不動産観点で駅近にぜったいあるので合理的では、というアイデアでしたが。翌年からはKINGの運営側に回っています。この団体は、ユーグレナの出雲氏、ラクスルグループの松本氏など、多くの起業家を輩出していますが、私もここでの出会いがきっかけで、一緒に起業した友人たちと出会っています。

法学部に在籍していましたが、弁護士になろうとは思いませんでした。アルバイトでセキュリティに関する仕事に従事したのがきっかけでセキュリティエンジニアとして就職を決めたのは前述の通りですが、セキュリティも法律に似たところがあって。課題を順序立てて解決していくというプロセスが同じなので、こういった業務に向いているのかもしれません。

休日の過ごし方、リフレッシュ方法はありますか。

4児の父なので、基本的には子どもと遊んで過ごしています。今まで子どもと過ごさなかった休日といえば、音楽フェスに一人で行った数日だけです。基本的には子どもと一緒で、動物園、水族館などのコンプリートが進んでいます。個人的にはサウナと車が趣味でして、たまにドライブのためだけに高速道路を走っています。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。

個人的には、せっかく事業をやるんだったらとことんユーザーに向き合ってほしいと思っています。対象がコンシューマーであっても、エンタープライズであっても、ユーザーの獲得でしかビジネスは成り立たない。それ以外のKPIを重視している起業家もいるのはわかっていますが、私自身はそう思うタイプです。

ユーザーは、サービスに対してわずかであってもなんらかのメッセージを発信していることがほとんど。アンケートやSNSでの不満の声、改善要望、これらに誠実に向き合っていかなければ事業はスケールせず、それすなわち経営の不成立です。また、ユーザーの向かい側にいるのは従業員なので、従業員とよい関係を作ることもとても大事。例えば、待遇に不満があって、いつもぶすっとした表情のバリスタがいるスターバックスって、きっと今ほどお客さんが来ませんよね。スケールしたら全ての従業員と心を通わせることが難しいのはわかっていますが、できる限り楽しんで働いてもらえるように配慮したいと思っています。

最後に、これから作りたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。

トイサブ!のユーザーの中で、最長利用期間は59ヶ月、利用おもちゃ数は180個です。理念に共感いただき、お子さんにおもちゃの選択肢を多く与えるお手伝いができている。私が常々思っているのは、そんなふうに個を大事にする社会になってほしいということです。だからこそ我々は、個を大事にできる人間に育っていく最初のきっかけでいたい。そうやって育った第一世代が、次の世代にきっとよい影響を与えてくれるのではないかと信じています。

個を大事にするというのは簡単なことではありません。多様な人がいる前提になるので複雑性が上がり、今よりもさらに画一的な動きはできなくなって、特に制度設計は難しくなっていくでしょう。会社、学校、家庭、方向性の違いが増えて、コミュニティは分散化していく。ただ、社会の統一は難しくても、個が満足していればいいんじゃないかと思うんです。それに耐えられる組織だけが残っていくでしょう。大規模な組織がなくなって中小規模の組織になっていくかもしれない。でもそれはそれでいいんじゃないかと。

とはいえ、私たちは営利事業ですから、自社の拡大は図らないといけません。現在のユーザー数は約13,500名ですが、2年後である2025年には、約10倍の10万人まで拡大したいと考えています。我々の理念に共感し、一緒に事業を伸ばしたいと思ってくださる方のジョインをお待ちしております。

株式会社トラーナ
住所
東京都中野区丸山1−12−8 EFGビル7階
代表者名
志田 典道
会社URL
https://torana.co.jp/
採用関連
https://careers.torana.co.jp/
Eriko Nonaka
JP Startups副編集長/N.FIELD代表 三菱UFJ銀行、SoftBankを経て2019年より一般社団法人Fintech協会事務局長。2020年より合同会社N.FIELD代表。TechCrunchJapanライターを経て2022年よりJPStartups副編集長。 多方面の事業に明るく、イベント登壇・執筆、スタートアップ支援、業界団体運営を通したパブリック・アフェアーズなどにより、自律分散型社会の設計を目指す。