社会を変えるビジネスを!脱炭素を追い風に2年足らずでシリーズBを達成したアスエネ西和田氏が目指す次世代によりよい世界

2020年10月の「脱炭素宣言」を機に、CO2削減・再生可能エネルギーがビジネスとして評価される時代が日本にもやって来た。その同時期に旗を立て、猛スピードで前進するスタートアップがいる。「次世代によりよい世界を」を掲げ、企業や自治体のCO2排出量見える化・削減クラウドサービス「アスエネ(旧サービス名 アスゼロ)」を提供するアスエネだ。

同社は、設立から2年半でシリーズBに到達した。契約受注額は月平均+150%超を記録、前年対比で契約社数5倍、社員数5倍という驚異的な成長を誇るアスエネのCEO西和田 浩平(にしわだ・こうへい)氏の印象は、まっすぐで正直で、感謝を言葉にする人。成長の軌跡を伺った。

受け取ったエネルギーをすべて成長の糧に

西和田さんの今までのキャリアについて教えてください。

慶應義塾大学を卒業後、再生可能エネルギーにビジネスとしての可能性を感じて2009年に三井物産株式会社に入社しました。約11年、国内外で太陽光発電や風力発電などの新規事業開発や投資、M&Aに携わったのち、2019年9月に退社をし、翌月にアスエネを創業。2020年5月に一つ目のサービス「アスエネ」をローンチ、チームをつくりながら2021年8月に二つ目のサービス「アスエネ」の立ち上げを行いました。現状どちらのサービスも好調に急成長も、スタートアップとしての勝ち筋を考えると「アスエネ」のポテンシャルが高いと考え、今後は主力事業を「アスエネ」にしていくつもりです。

なぜ再生可能エネルギーに着目したのですか?そのきっかけや理由を教えてください。

大学時代に環境問題について調べるようになり、その中で唯一環境と経済の両立に可能性を強く感じたのが再生可能エネルギーでした。就職活動では、海外でチャレンジができて、成長産業の領域で社会的インパクトのある事業ができる企業を探しました。

ただ、さらにそのきっかけがあります。少し話が長くなってしまうのですが、今思えば子ども時代から目的意識がとても強く「何の役に立つのか」に対する解を自分の中で持てないと興味も持てない、という性格でした。算数など勉強は得意でしたが、当時は将来何の役に立つのか?を先生に聞いても、納得のいく回答が得られなかったので興味が持てなかった。そんな中、中学生の時にMr.Childrenの桜井さんのライブに行って、音楽がこんなにも多くの人に感動を与えて行動を変えるのかと感銘を受けました。そこから自分も感動を与えられる側になりたいと思い、実はミュージシャンを本気で目指していたのですが、目標を達成できず大学2年生で挫折をしました。音楽を辞めて「これから何をしようか」と考えていた時、桜井さんのBank Bandのライブに行き、そのライブMC中に桜井さんが「収益の一部を環境問題に取り組む企業や団体に融資や投資をしている」という話をされていて。ビジネスを通じて社会を変える仕組みをつくれるのか、と改めて感銘を受け、そこで初めてビジネスに興味を持ち、環境問題や社会の課題について調べ始めたのです。

アーティストの桜井さんが西和田さんにそんなにも濃い影響を与えていたとは、桜井さんも驚かれそうです。では、経営者になりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

大学4年時に三井物産の同期と学生の国際協力団体をゼロイチで立ち上げた経験も大きかったですが、一番はブラジルのEcogen社という省エネ・再エネのベンチャー企業に出向したときに、経営者に多大な刺激を受けた原体験がありました。

当時、三井物産の尊敬するエース上司が副社長兼CFOとして出向しており、私もそのお付きとして何でもやるポジションで出向していたのですが、経営幹部同士の面談での意思決定のスピードがとにかく早かった。会議でもメールでもその場の応酬でやるかやらないのか、なぜそうすべきかの議論がハイスピードで決まっていく、その意思決定の速さや手数の多さに圧倒されました。どうすればそこまで仕事が早くなるのか?というのを何度も質問しながら、身近で研究・分析できたのも大変貴重な経験でした。同時に、経営者として事業に携わる面白さを感じ、自分自身も経営にチャレンジしたいと強く考えはじめました。社長・副社長の面談によく同席させてもらっていたが、いくら事前準備を徹底しても、会話の応酬と切り返しのスピードが早すぎて、最後に準備していた質問しかできないことも多々ありました。同じ土俵に立たなければ闘えない世界を目の当たりにできたことは本当に貴重な経験でした。理想の経営者像やアスエネの行動指針はブラジルの経験で濃く形つくられたと思っています。

起業してから特に大変だったことを教えてください。

今も毎月大変なのですが、創業期を振り返ると仲間集めが大変でした。今は50名超の組織に成長し、プロフェッショナル人材がアスエネのMVVに共感をしてくれて集まってくれていますが、一人目のエンジニア探しにはかなりの時間を費やしました。私はずっと事業開発や投資をやっていたので、当時はシステム開発の経験はなく、そもそもエンジニアと話したこともない状態だったため、同志として信頼できるエンジニアを友人経由で必死に探しました。エージェント経由で探しても、直感でも怪しいと思う人ばかり。当時はシステム開発・Blockchainの本を数十冊読んで要約を纏め、それを基にエンジニア候補と議論していく中で自分なりに知識もつけました。そして、2020年1月に六本木のカフェで、友人の紹介で共同創業者でTech Leadのラクマに出会いました。当時、ラクマはメガベンチャーでフルタイムで仕事をしていたのですが、アスエネのプレゼンをして口説いて一緒に開発してもらうことをOKと回答をもらったときは嬉しかったですね。そこから開発の要件定義・設計・デザイン作成・開発実装のプロセスを通じて、ラクマからエンジニアリングの知識やスキルを教えてもらったことでプロダクト立ち上げもできたし、開発会議をハンドリングできていたと思います。

仲間集めのお話ですと、もう一人共同創業者がいらっしゃいますよね。

取締役COOの岩田ですね。当時はまだラクマも副業で関わっている状態で、営業・開発プロマネ・バックオフィス・投資・融資交渉など全て私一人でしながら、10社以上契約が取れ始めた状態でした。しかし、私が得意なのは新ビジネスモデルを構想・立ち上げの「ゼロイチの突破力」となり、この先の1を1,000にできる人材が必要だと感じていました。そんな中で日本ベスト5の時価総額を有し、営業で強い仕組みを創れるキーエンス人材に特化して人を探していたところ、出会ったのが岩田でした。彼が入社したことで一気に事業が加速しました。

でもそれ以上に、最初の1年間は投資家とともに一人で事業をやっていたので一緒に戦ってくれる仲間の存在がこんなに大きくありがたいのかと実感しました。これはメンバー全員に対して今でも思っていることでもあります。

資金調達についてはいかがでしたか?

元々三井物産時代にベンチャー投資やM&Aの仕事をしていたので、投資家の気持ちがわかることがポジティブに機能していました。投資家との議論により、一緒に市場・ビジネスモデル戦略・競合優位性・課題をブラッシュアップしていくDDプロセスは、起業家・経営陣が鍛えられる場だと考えているので、むしろ交渉プロセスをポジティブに捉えていました。

最初のシードラウンドに関して、起業準備中に、同じ規制産業である医療産業のスタートアップのイベントに参加した際に、そこでインキュベイトファンドの代表パートナーの本間さんに初めて出会いました。ちょうど退職する3週間前。当時はまだチームもプロダクトもなく、市場の知見・ビジネスモデル案とコミットメントしかない状態でした。イベント後に立ち話で構想を語っていたところ、その場で是非出資したいとのお話をいただきました。その意思決定のスピード感に正直驚きました。ただ、当時は私の勉強不足でインキュベイトファンドさんの詳細を知らなかったため、その場ではこちらが意思決定できず、追加で議論させてください、と議論がスタート。その後、特に本間さん自身もVCファンドを立ち上げた起業家であり、起業家のリスクテイクの本質を理解いただきながら本気でコミットしてくれることに価値を感じました。その後、戦略議論を重ねて2019年12月にシードラウンドで7,500万円を調達させていただきました。本間さんにはその後ハンズオンで毎週MTGを継続しながら、シリーズA、Bと3連続で出資いただき、大変心強いパートナーとして共に歩んでいること、大変感謝しています。

【アスエネ 資金調達情報】

  • 2019年12月 シード 7,500万円調達
  • 2021年3月 シリーズA 3億円調達
  • 2022年4月 シリーズB 16億円調達

設立2年半でシリーズBに到達されたのですね。当初の予定と比較していかがでしょうか?

事業成長の速度は当初想定していたよりも少し早いですね。シリーズBは実績を重視されますが、事業計画以上に実績が出せました。それを出せるメンバーに恵まれたことが正直大きいです。これまでに総額で22億円を出資いただき、追加でエクステンションラウンドも動いていますので、さらに攻めていきたいですね。

今、アスエネやクライメートテック企業にはどのような風が吹いていますか?追い風と向かい風、それぞれ感じることがありましたら教えてください。

追い風が吹いていることは間違いないと思っています。プロダクトをローンチした数ヶ月後、元菅総理が所信表明演説で「脱炭素宣言」をされました。一部の人だけが来ると思っていた波が、日本のトップが起こしたアクションによって日本中を巻き込む大きな波に変わりました。日本企業は政府をしっかり見ていますから、国の方針や法律が変わったことで、一気に企業の空気感も変わりました。業界団体などのイニシアティブを取る団体も増えました。この脱炭素社会を目指す流れは世界的なトレンドでもあり、不可逆だと思っています。

向かい風については、脱炭素に関してほぼ全ての企業が無関係ではないため、一部の業界や企業からはCO2規制の導入の反対が起きています。炭素税がかかる業界からすると、CO2排出量の見える化を先延ばしにしたい気持ちも理解できますが、そのような業界の方が投資家からの脱炭素に対する圧力が強くなっているのも事実です。

この数年で競合が増えていることはどのように捉えていらっしゃいますか?

将来性があり市場が伸びていないと競合も出てきませんので、競合のスタートアップが増えることは、投資家や起業家から見てもむしろポジティブです。実際に、私たちのクライメートテックのビジネスモデルの市場規模は、世界全体で130兆円以上と巨大です。

優秀な人材が集まり結果を出す組織の中身

事業経験が豊富なメンバーが続々とアスエネに集まっていらっしゃいますが組織風土について伺えますか?

弊社のメンバーは前職までに結果を出してきた本当に優秀な方々で、かつ強いチャレンジ精神を持っています。大企業特有の縛りのないベンチャー企業で、自分の裁量を大きく持って頑張りたいという思いが合致した方が多いように感じます。私自身のブラジル時代の経験もあり、弊社はとにかくスピード重視で、そうでない人にはスピードが上がるよう助言をしています。

MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)について伺えますか?

ミッションに「次世代によりよい世界を」ということを掲げています。私たちにとってミッションが最も重要です。スタートアップのような小さな組織でも、社会を変えられるアクションにつなげられると信じて仕事をしています。また、プライベートでは9歳になる娘がいまして。子どもが生まれる前と比較して、今は娘や子供の将来に主体性をもって考えるようになりました。どうしたらよりよい社会を残せるだろうかと考えた時、先述しましたが私は目的意識が強いタイプなので、次世代のために一生懸命何かをやってやり切ったと思えたら、それが自分にとっての幸せなのではないかと考えたのです。これが、ミッションにも色濃く反映されていると思います。

次に10のバリューを定めており、コア・バリューはIntegrity、Ownership、Go Fastの三つです。実は当初バリューはなかったのですが、採用でミスマッチが起きてしまったことをきっかけにチーム全員でバリューを定義して決めた経緯があります。スタートアップに転職することは大きな決断であったはずなのに入社してそもそも働く価値観が合わない部分が多いと、ミスマッチになり、こちらも他のメンバーの仕事を増やすことになる。これはお互いに良くないと考えて、バリューを新設してから、大幅にミスマッチが減少したと考えております。

今後、どういう方に仲間になって欲しいですか?

開発、営業、カスタマーサクセス(CS)、海外展開など全方位で優秀な人材を募集しています。毎月成長しておりますので、どの部署もやる気のある人材を求めています。ご興味を持っていただいた方は弊社の採用ページよりぜひ御連絡ください。

グローバル展開についてはどのようにお考えでしょうか?

日本だけではなく将来の海外展開も視野に入れて活動しています。クライメートテック企業として世界にチャレンジし、21世紀に新たな価値を創出していきたいですね。

最後に、読者へ一言お願いいたします。

仲間集め、資金調達、PMFなど、初期のスタートアップは様々な苦労があるかと思いますが、その中で自ら道を切り拓くしか方法はありません。私もまだまだこれからの成長が本番ですが、立ち上げフェーズの苦労を経験してきた中、残念ながら成長に秘策はありません。
私の場合は、様々な仮説を立てた上で、多くの人を巻き込むことを意識していました。課題や解決策について仮説を持って、その仮説をベースにして相手と対話し、様々な反応を検証することができます。最初に行動をして、この方法だとうまくいかないかもと感じたら、ピボットして別の方法や行動を試してみてください。諦めないことが最大の突破口です。

アスエネ株式会社
住所
東京都港区虎ノ門1-17−1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 15階 CIC TOKYO
代表者名
Co-Founder&代表取締役CEO 西和田 浩平
会社URL
https://earthene.com/corporate/
採用関連
https://earthene.com/corporate/recruitment
亀岡 愛弥
金融機関や外資コンサル、アクセラレーター施設立上げを経て独立。合同会社OmochiのCEO。Startup Hub Tokyo(TAMA)のチーフコミュニティマネージャーや、起業希望者向け個別相談、イベント企画運営を通じて日本のスタートアップ業界の拡大を目指す。