ビジネスXRからメタバースプラットフォームへ、創業6年目の挑戦⸻株式会社Synamon 武樋 恒氏インタビュー

XRとは、仮想世界を用いた技術の総称で、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術すべてを指す。

そんなXRは今まで主にエンターテイメント分野で注目されてきたが、新型コロナウイルスの流行を機に昨今はビジネス用途での注目も高まっている。リモートワークが主流になったことでXR技術を用いたリモートオフィスが注目されるなど、さまざまな企業がエンターテイメント以外の用途でメタバース関連サービスの開発に乗り出し始めた。

今回インタビューした武樋 恒(たけひ・わたる)氏が注目したのはXRが可能とする想像の具現化。ビジネスにおいてプランやビジョンを共有する場面は多々あるが、頭の中で思い描いたものを共有することは容易ではない。そこで、XRの技術を用いて想像を具現化し、スムーズな理解を促すことができるのがXRの魅力であるとしたのだ。

そんな武樋氏が創業した株式会社Synamonについて、そして武樋氏の過去と現在、また未来についてインタビューを行った。

「XRは想像を具現化できる」幼少期から夢見た未来とは

事業の概要について教えてください。

2016年8月の創業時から、XR技術に特化して事業を行っています。基本的には、VR、ARなどの技術を社会実装することを根幹に置いて、社会実装していくための技術提供であったり、関連するビジネスの展開にも注力しています。

また、メタバース関連の事業も進めていて、直近ですとメタバース向けのプラットフォームを新規開発しています。

XR分野で起業に至った経緯を教えてください。

子どもの頃から「今の世界は現実なのかどうか」と考えることが多く、中学生の頃に放映された映画「マトリックス」の世界観に惹かれました。それをきっかけにVR、ARを知り、興味を持ちました。

興味を持った当時は、金額や技術の面で一人では手を出せない領域だと感じていましたが、VR元年と呼ばれる2016年に、Oculus社(現・Meta)が販売した「オキュラス・リフト」など手の届く金額のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が普及していき、現在は同分野への参入がしやすくなっています。そのような風向きもあり、起業を決めました。

XRの魅力はなんでしょうか?

XRは想像を具現化できることが一番の魅力であり、利用価値だと思います。例えば、街中にロボットが溢れている世界と聞いて、すぐに想像できないと思うのですが、XR技術で疑似体験することで簡単に理解できるようになります。このように、想像したことを話して相手に伝える際に手助けをすることで、事業が進んだり、世の中の新しいことを加速させたりできるのがXRの魅力であると思います。

これまでのキャリアを教えてください。

新卒で大手メーカーに入社して、2年半ほどSlerの営業を行っていました。その後、Webマーケティングのベンチャーに移り、アナリストやフロントの営業などを行っていたのですが、そこも1年半ほどで辞めて海外に移住し、語学を学んだりしていました。帰国後は、ハードウェアのスタートアップに1年半ほど在籍し、Synamonを立ち上げました。

起業して特に大変だったことはありますか?

これまで大変な時しかなかったですね(笑)。その中でも常々感じているのは、XR分野では、どのような結果が出て、このような効果が期待できます、というような具体的な提示が難しいということです。私たちとしては、ニーズがすでにあるものではなく今後ニーズがあるだろうという方針で動いているので、同じ夢を持っていただける会社、投資家の方を探すのに苦労しました。

また、新規分野のため、営業などのビジネス面でも型が無く、成功事例が中々出ない課題もあります。そのため、会社として前に進めていないような停滞感が出てしまうこともあり、新しいものをつくって広めていくつらさは現在を含めて感じている部分です。

これまでに共同開発、技術提供が多い印象を受けましたが、なにか方針があるのでしょうか?

特に方針があるわけではなく、会社として成長するために取り組む意義があるものはやるべきと考えていたら、必然的に多くなった形になります。

XRが世の中にどのような利益をもたらして、どのような必要性があるのかという部分を世間に示すために、手をたくさん打った結果として事業提携、技術提携という動きになりました。

事業の成功にはたくさんの要素がありますが、もっとも寄与したものはなんでしょうか?

成功に必要なのは「想い」しかないと思います。先ほど話した通り、XR分野は成功事例をつくるのが難しいので、想いを持ち続けられないと挫折してしまうんです。しかし、続けないと成功できませんし、世の中は変えられないので、どうモチベーションを保っていくかが大事で、そこは結局想いしか無いんです。

今一緒に働いてくれているメンバーは、その想いがあって一緒にここまで来られましたし、彼らがいるからこそこれからも事業を続けていけると思っています。

Synamonの新たな挑戦「メタバース総合プラットフォーム」

メタバース総合プラットフォーム「SYNMN(シナモン)」
Credit: Synamon

4月に発表された「メタバース総合プラットフォーム」の概要について、また開発の経緯を教えてください。

メタバース総合プラットフォームは、マルチプレイが可能なメタバース空間です。最大100人がスマホやPCから同時に接続可能で、イベント会場等での利用を想定しています。

開発のきっかけとしては、XR、VRにはマルチプレイ要素が必要だと感じていたことが挙げられます。SNSは利用者が複数人いないと使われないように、インターネットサービスは他のユーザーとのやりとりが発生することで普及します。このやりとりをトランザクションと呼ぶのですが、HMDを利用するようなハイエンドな取り組みでトランザクションを発生させようとすると、同時に接続できるのは10人ほどが限界なんです。

その接続数を増やすのが課題とされていたのですが、メタバースの概念が普及し始め、ハイエンドなサービスより、手軽に参加できるサービスが増える傾向になりました。具体的には、HMDではなくスマホなどで参加できる3D空間でのメタバースに注目が集まったんです。

企業のニーズでいうと、プロモーション、マーケティングに利用したいという声が多くなったと思います。他のビジネスユースの要望もあるのですが、予算がつきにくいことが多く、実行・実施まで進むことが難しいのが現状です。特に日本はこのような傾向が強いと思うのですが、新規分野に対しては前例がないから扱えないと言われてしまい、一つ目の事例をつくるまで時間がかかってしまうという問題があります。あまりにも突拍子のない分野だと明確な費用対効果などを出せず、予算をつけるのが難しいんです。

その点、プロモーションやマーケティングであれば事例もでき始めており、ビジネスユースの中でも話が進みやすい領域です。このようなビジネス面の話もあり、プロモーション、マーケティングなどにも活用しやすいスマートフォンでも利用できるメタバース総合プラットフォームの開発を行いました。

開発にあたって、苦労した部分はありましたか?

プロモーション、マーケティングに使用しやすいように、スマートフォンでの利用を想定して開発を始めましたが、それゆえの難しさがあり苦労しました。弊社はこれまでHMDを利用した技術を軸に事業を展開していたため、スマートフォンに関しては扱ってこなかった領域なんです。スマートフォンに対応しようとするとHMDで培ってきた技術のみでは対応できない領域もありましたし、システム基盤の将来性という観点からも、今回のサービス提供に向けてはゼロベースで設計開発を進めることにしました。

グローバル展開についてはどうお考えでしょうか?

グローバル展開については、創業当時から考えています。やはりメタバースはインターネットを介して世界中どこからでもアクセスできることが強みであると思いますので、我々のプロダクトも世界中に普及させたいです。そのために、まず日本で導入を増やし、そこで培った知見で世界へ展開しようと考えています。

日本で始めた理由としては、日本人は想像を具現化するのが得意なことが挙げられます。例えば、どこでもドアの話をしたときに日本では誰でも想像ができると思うのですが、海外ではそういった発想がすぐできることはあまりないんです。フィクションなどを通してその土台ができていることが大きくて、日本はVRなど新しい技術に親和性のある国だと思うんです。なので、日本で前向きに進めた後に、海外へ展開しようと考えました。

しかし、想像とは裏腹に日本が新規分野についてネガティブだった点や、新型コロナウイルスのタイミングが重なってしまったこともあり、グローバル展開の機会を逃してしまいました。新型コロナウイルスが来る直前は、ちょうど海外拠点をつくろうと調査したり、国外を回っていたりしていた時期でした。その時は撤退を余儀なくされてしまったのですが、グローバル展開はやはり成功に不可欠なので、今後も積極的に展開はしていこうと考えています。

時代に合わせて変化していける組織風土

社内を拝見してアットホームな雰囲気が見受けられましたが、どのような組織風土でしょうか?

新規分野を扱っているので、新しいものが好きな方が多いです。そして、自分の好きなことにのめり込めるオタク気質の人が多いことも特徴だと思います。

アットホームな雰囲気については、狙っているわけではなく気づいたらこうなっていた、という感じです。会社全体で風通しの良い環境にはなっていると思いますが、雰囲気が良いだけでは良くないと思っていて、必要なカルチャーは会社のフェーズや場面によって変わってきます。例えば、短期間にガッツリ開発をしたい時期において、良い雰囲気のチームでも空気感が緩すぎると突き詰め切れずにふわっとしてしまうデメリットがあります。一定のリズムで行けるのは良いことですが、時代の流れが早いのでそれに対応できるチームづくりが大切だと考えています。
組織風土については、これがSynamonの組織風土、というものはなく、アットホーム感の話もそうですが現状に合わせて変えていくスタンスでいます。

現在採用はしているのでしょうか?

採用は行っていますが、基準の部分が会社のフェーズに合わせて変わってきています。以前はゼロイチのフェーズだったため、スキルも大事でしたがサービスに対する熱意、想いがある方を積極的に採用し、「全員経営者マインドセット」という書籍の考え方を導入していました。

現在は1から10、また10から100のフェーズに来て、組織として厚みを持たせるために全員横並びではなく、階層構造にしました。そのため、自ら先に立ち、背中を見せられるプレイングマネージャーを募集しています。自分自身、また自分の部署のみならず組織全体を見て活躍できる方とご一緒したいですね。

休日のリフレッシュ方法などはありますか?

基本的には四六時中仕事をしているので休日があまりないですね(笑)。ですが、休日の過ごし方として、新しいものを調べることは続けています。昔から新しいものを知ることが好きなのと、仕事にも繋がる部分があるので時間を使う部分ではあります。特に、Web3やメタバースなどの話は情報の流れが速いので、時折見るだけではとても追い切れないんですね。実際、自分も今追いきれているかといえばそうとも言えません。そのようなこともありつつ、調べることが楽しいので自由な時間を使って情報を追うようにしています。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか?

プレシード期ですとまだプロダクトが固まっていない場合もあると思うのですが、一つ言えるのは「固執してはいけない」ということです。プロダクトを定めてもやはり当たるかどうかはわからないので、当たらなかったときに方向性を変更せざるを得ない場合があります。信念を持って一つのプロダクトを突き通すのも良いと思いますが、変に固執してリビングデッド化してしまうケースもあります。ピポットするならする、と適切な判断をすることが重要になってくるので、固執しすぎずに柔軟性を持つことが重要だと思います。

また、「無駄のない筋肉質な組織構造にする」ことも重要だと考えます。初期に人を増やしすぎてしまい、会社として身動きが取りづらくなる事があるので、組織の規模はクレバーに考えるべきだと思います。資金調達やサービスの伸びを見つつ、それに合わせて人を増やしていくことが重要です。資金調達に成功したからといって一気に人を増やすと足かせになってしまう事があるので、「筋肉質な組織構造」を意識して経営すると良いと思います。

「XRが当たり前の世界をつくる」

最後に、これから作りたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。

現代においてさまざまなタスクが効率化されていますが、効率化してできた時間をまた別のタスクに当てるような構造になっています。しかし、効率化してできた時間はたくさんのタスクをこなすためではなく、新しいチャレンジのために使っていけば、また新たな効率ポイントが見つかるかもしれないし、なにか新しいサービスを起こせるかもしれません。このような正の連鎖をXR技術を始めとする先端技術を活用してつくっていき、チャレンジで溢れる世の中を会社として目指していきます。

株式会社Synamon
住所
東京都品川区西五反田7-22-17 TOCビル9階1号室
代表者名
武樋 恒
会社URL
https://synamon.jp/
採用関連
https://synamon.notion.site/synamon/Synamon-recruiting-door-page-a0d57607e9f347579e1482de7cad34b7
杉浦 大盛
東京国際工科専門職大学 IoT専攻3年生。 高校生時より、大手旅行メディアにてライターを努めた後、NPO法人にて教育系メディアの立ち上げに携わる。 その後、AI系メディアのブランディングチームやフリーランスにてWebライター、SEOマーケターとして活動中。 得意領域はITとおでかけ。